北極ロシア資源開発
北極圏の石油・ガス資源開発はなぜ必要なのか?
北極での石油・ガス資源と開発条件
北極圏での石油・ガス資源については、2008年に米国地質調査所(USGS)が、未発見資源量に関して、石油が世界の13%、ガスが世界の30%残存しているという評価結果を公表して、一気に注目を集めることになった。北極海の内、ロシアの大陸棚は面積で沿岸5か国全体の大陸棚の60%を占めており、且つそのかなりが石油・ガスを胚胎する陸域の堆積盆地の北方延長となっている(図1)。具体的には、バレンツ海とカラ海に石油・ガスが有望であり、特にバレンツ海は冬季も結氷しないという操業上の好条件を備えている。
図1 ロシアの堆積盆地(緑の部分、石油ガスを産する)と北極海大陸棚
ロシア北極圏での石油ガス開発の現況
現状の石油・ガス開発に関して、バレンツ海とカラ海及び隣接陸域の状況を図2に示した。北極域では唯一、バレンツ海のプリラズノムノエ(Prirazlomnoye)油田が2012年に小規模ながら生産開始となった。カラ海では、2014年に国有石油ロスネフチと米国メジャーのエクソンモービルによりEPNZ-1鉱区でポベダ(Pobeda)油田が発見されたが、同年発生したウクライナ問題で、米とEUが対露制裁を発動して北極海技術が移転禁止となり、油田開発は頓挫している。
図2 ロシア北極圏での石油・ガス開発の現況
陸域では、カラ海に面したヤマル半島で、1970年代から巨大ガス田群が発見されていたが、2012年にボワネンコフ(Bovanenkov)ガス田が、2014年にノヴィポルト(NoviPort)油田が、そして2017年にヤマルLNGが生産開始となるなど、2010年代に入って活況を呈している。2023年にはアルクチックLNG-2の生産開始が見込まれるが、これには日本企業も10%参加しており、北極資源開発は日本にとっても身近なものになって来ている。
北極圏の石油・ガス資源開発はなぜ必要なのか?
北極圏で石油・ガス開発を行う目的は基本的にビジネスとしてであり、経済と環境技術の合理性の中で展開される。21世紀を通じて世界の人口は増加を続け、エネルギー需要も増加が見込まれることから、継続的な資源開発は必須である。石油漏出等の環境対策には常に万全を期す必要があり、現場での操業経験の蓄積が重要である。北極圏における資源開発は、同地域におけるインフラ投資、雇用創出の利得も大きいが、それ以上に国際協力のもとでの、共通利益、共通価値による強い求心力と安定性を構築するという点で、優れて文明的な営みと言える。即ち、北極圏における資源開発は、「資源争奪」ではなく「秩序形成」に貢献するものである。
文責:本村 眞澄(元 財団法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)