海底油田の開発方式

ノルウェー領バレンツ海の石油開発拠点ハンメルフェスト港

石油探鉱・開発の対象地域の変遷と経済性の確保

油田の探査、試掘や開発作業はまず陸上で始められ、その後海洋へと移っていきました。陸上に置いては比較的探査や試掘作業が容易な地形が平坦で植生が少なく、油田を発見した場合に原油など生産物が運搬しやすい地域で始められました。そのような地域が少なくなると、次第に条件が厳しくより探査や試掘作業が困難な地域、すなわち砂漠、ジャングル、山岳、人跡未踏に近い奥地などのリモート地域へと探鉱開発地域が移っていきました。それに従い探査、試掘、開発などの作業や生産物輸送、ロジスティクスなど様々なコストが増加します。また油田自体も地下の集油構造がより複雑でより大きい深度に位置するものが探査や開発の対象となるので、要求される技術の研究開発も並行して進展してきました。

海洋での探鉱開発対象地域の変遷トレンドも陸域と同様で、当初は水深が浅く離岸距離の小さい海域で探鉱開発作業が始まり、次第に水深や離岸距離が大きく海象・気象の厳しい海域へと移っていきました。関連する探鉱や開発コストの増加トレンドや開発対象の難易度の上昇も陸上と同様かそれ以上です。

そして、どこの陸域や海域にしても、探鉱開発の高度な技術とともに、試掘などの探鉱作業や開発施設建設、原油輸送、安全確保、環境保全などの膨大な初期コストや操業コストを投下しても、十分な経済性を確保するための原油価格が見込める事が必須となります。

海洋油田の開発システムの検討

海洋油田の開発は厳しい海象・気象・水深・水圧・低温・高い地層圧力・温度などの克服により、油田のコントロール、環境保全、安全確保、コスト低減、最終的には経済性の確保の実現を目指すことになります。ある油田に採用する開発システムの検討は、水深や海底の状況、油田の広がりや埋蔵量規模、油層の深度、油層の圧力・温度、油・ガスの特性性状、海象・気象などの情報、および操業体制や油・ガスの輸送方法、周辺のインフラ、安全確保、環境保全などの装丁に基づき進められます。

図1に水深増大への挑戦と克服に関する成果を示します。水深が増すにつれて施設の規模も大きく建造技術や設置の難易度も増し、当然種々のコストも増大します。それでも収益が確保できるだけの大きな埋蔵量を有する油田であることが必要です。すなわち大水深、リモートの海域や極地のような厳しい環境では、開発・生産操業を行っても十分な経済性を有する大油田を発見する必要があるということになります。

図1 開発・生産システムと水深

海底油田開発における技術の発展

発見した油田を開発する場合、できるだけ地下の地層中の石油・ガスの回収率を向上させることが経済性の改善につながります。そのために開発された代表的な技術としては、掘進方向をコントロールし坑井を自在に曲げて掘り生産エリアを増大する「水平坑井・大偏距・マルチラテラル坑井掘削」(図2)、油層圧力を維持・増加させ産出量を増やすために流体を圧入する「水圧入・ガス圧入・混合圧入」、坑井掘進中に坑井内の地層状況をモニターし適切な判断を行うための「LWD(Logging While Drilling)」などがあげられます。

図2 水平坑井・大偏距坑井・マルチラテラル坑井

また、油田の地下の地層中の石油・ガスの状況の推定・把握の技術として、4次元地震探査や地質・油層モデルの作成による生産シミュレーションの実施などがあります。開発・生産操業に関しては、大水深での「海底生産システム・海底仕上げ・ドライ仕上げ」(図3)や無人の調査・メンテナンス用小型潜水機器(ROV/AUV)(図4)、生産井コントロール・油層モニタリング技術の向上などがあげられます。

図3 海底生産システムの一例(フラム油田)

図4 調査・メンテナンス用小型潜水艇

海底油田の開発、特に大水深の場合は厳しい環境条件や修理や回収のためのアクセスが簡単ではないこと、機器とシステムに高度の信頼性と安全性が要求されることなど宇宙開発との類似性が言われることもあるようですが、石油開発事業はビジネスなのでもちろん経済性を確保できるかが重要です。これら先進技術の研究・開発には確かな需要が必要であり多大なコストがかかりますが、それに見合う石油・ガス回収率の向上。操業費の削減や安全性の確保、環境保全などを見込んでの取り組みが続けられています。

ノルウェーにおける油田開発施設と実例

ノルウェーは海底油田開発に関しては世界屈指の技術、経験、実績を誇っています。中でも海底生産システムでは世界をリードする存在です。ノルウェーの油田は比較的規模が大きく、開発対象の海域では水深も大きいうえに厳しい海象・気象条件や低温対策などにも対応する必要があります。そのような海域では海底生産システムを取り入れた開発方式が有用かつ経済的となるケースが多くなります。従って、エクイノール社(ノルウェー準国営石油会社)は海洋油田からの石油生産では世界最大の会社であり、それを支えるノルウェー国内の石油開発エンジニアリング会社やサプライヤーも高い技術力を有しています。もちろん、開発に際しては厳しい環境基準の遵守と安全対策の徹底を図ることが必要であり、既存の施設を可能な限り延命させて有効利用することや、海上の油田施設労働者の福利厚生を考慮する必要もあります。

環境保全に厳しいノルウェーの油田開発における二酸化炭素排出量削減の試みとしては、海上施設でのガス燃焼タービンによる発電の代替として、陸上からの水力発電による電力供給や海上施設近隣での洋上風力発電による電力供給があげられます(図7)

図5に北部北海タンペン油田群(石油・ガス)、図6にバレンツ海スノーヴィットガス田(LNG)、図7に海洋油田施設への洋上風力発電による電力供給(タンペン油田群)を示す。

図5 北部北海タンペンエリア油田群の開発

図6 スノーヴィットガス田(LNG)の開発

図7 海洋油田施設への洋上風力発電による電力供給

文責:高橋 照之(出光興産株式会社 資源部)

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