永久凍土とは

永久凍土とは?

永久凍土(permafrost)とは、複数年凍結した状態が持続した土壌または地盤を指します(図1)。

(図1) 東シベリアにみられる永久凍土と地下氷。2m程度の深さから氷が現れる。(2009年9月撮影)

 

地球上で永久凍土が存在する地域は、いくつかタイプ分けされており、どこにでも凍土が存在する地域を連続永久凍土帯、一部の条件が悪いところを除き凍土が存在する地域を不連続的永久凍土帯、限られた条件の場所に凍土が存在する地域を点在的永久凍土帯といいます。こうした凍土の分布を決めているのは、氷期-間氷期とよばれる数万年のスケールでの形成環境と、現在の気候・環境条件との対応関係によっています (図2)。

北極を中心にした地図で見た場合、現在の永久凍土の分布は不均等になっています。東シベリアからモンゴル北部にかけては連続的永久凍土帯が大きく張り出し、ユーラシア大陸での分布中心となっています。これは、氷期に氷河・氷床の発達が限られていたユーラシア大陸北東部、まさに東シベリアの領域では、直接厳しい寒さに長期間さらされ、深くまで地盤が凍結し、凍土が形成されたのです (図2)。

(図2)永久凍土の種類と分布(石川,2014より引用)

 

現在の気候変動と凍土溶解の影響

東シベリアでの近年の凍土融解は、近年顕著にみられる北極域の気候変動の影響を受けて進んでおり、地表面付近での大きな変化がみられます。特に、21世紀に入り、東シベリアでは、温暖化に加えて雨や雪が多い湿潤な気候が継続しました。その結果、地表付近の融解層(活動層(図2):夏季の融解と冬季に凍結を繰り返す)の土壌水分量が著しく増え、熱が伝わりやすく溜まりやすくなった地表面から融解が進み、活動層厚の深化が進みました。

この変化は凍土と共生環境にあった北方林(タイガ)の生態系にも大きな影響を与えています。タイガの主要な樹種であるカラマツは、過剰に湿潤化した地表面に変わったことで、数年のうちに葉が枯れ、枯死に至る個体が多く現れました (図3)。

(図3) 湿潤な気候により、赤く枯死しはじめた東シベリアの北方林(2007年8月撮影)

 

東シベリアのレナ川と支流のアルダン川にはさまれた地域の永久凍土には、地下氷(エドマ層)が豊富に含まれています。これは地表面からの融解(活動層の深化)が地下氷の現れる深さ(約2m深)に達するかどうかが、その後の環境変化の閾値となることを意味しています。いったん地下氷が融け、その水分が流出・蒸発散で失われると、地盤沈下による凹凸な地形が発達します。この現象をサーモカルスト(thermokarst)といいます (図4)。

(図4) 東シベリア・チュラプチャでみられる凍土融解で出現した地形変化(サーモカルスト)(2017年9月撮影)

 

サーモカルストによる地形の陥没が始まると、中央部では地下氷の融解水や降水、周囲からの水の流入によって、湖沼化がはじまり、小面積のサーモカルスト湖が形成されはじめます。さらに地盤の沈下が継続すると、その面積は拡大し、もとの北方林から、草原、水域へと変化をたどり、その最終的な景観として凹地状の広い草原地形が形成されるのです。現地の言葉で凍土融解の最終的な形態としての草原をアラス(alas)といいます (図5、図6)。

(図5) 変化する永久凍土と植生相互作用

 

人為改変や森林火災などの地表面変化に、長期的な気候変動で温暖化や湿潤化などの頻度の増加が重なることによって、地表付近の永久凍土の融解を引き起こす事態が続くと、これまで再生できていた北方林生態系が不可逆的に地形の変化や湖沼化、草原化する可能性が高まると考えられます (図5)。

(図6) 東シベリアでみられる凍土の融解過程と景観変化 (現地語(サハ語)では、ステージごとの呼称があり、地形・景観変化が認識されています。)

 

東シベリアでは永久凍土と共生する北方林生態系が成立してきたのですが、気候変動と凍土融解の重なりに対する自然の変化は、そこに暮らす人間社会にも影響を与え始めており、より総合的に注視していく必要があるのです。

文責:飯島 慈裕(三重大学 准教授)

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