地球温暖化による北極海氷減少と海面上昇
北極の気温分布 冬と夏
冬(図1左)はグリーンランド以外では、シベリアの内陸で最も低温となり、中心の北極海は(下に海水が存在し)それほど低温ではない。一方夏(図1右)は、北極海は海氷の融解域である0℃付近の領域が広がり、大陸内部は高温となる。従って、気温の年較差は北極海海氷域は小さく、大陸内部で大きい。
(図1左)1968年~1996年の1月(冬)における
平均地表面の大気温度
(図1右) 1968年~1996年の7月(夏)における
平均地表面の大気温度
強温暖化による「北極温暖化増幅」
図2に観測された緯度帯毎9年間移動平均地上気温偏差を示す。
地球温暖化に伴い、1970年代以降、北極域(図中60°N-90°N;緑線)では全球(図中Global;橙線)平均の2〜3倍の強い地上気温の上昇を示し、温暖化増幅が顕著に表れている。
また、1940年代にも北極域では顕著な温暖化が見受けられ、「20世紀前半の温暖化」として今日の温暖化を評価する上で重要な鍵となっている。
(図2)緯度帯毎9年間移動平均地上気温偏差(1880-1890基準)(Shindell and Faluvegi, 2009)
海氷面積の急減
図3に北極海氷面積の変化を示す。北極海氷の観測面積(茶色太実線)は気候モデル予測(黒色実線:全体平均値、黒色破線:上下限平均値)よりはるかに早く減少している。
(図3) 北極海氷の変化(Strove et al., 2007)
図4に北極海氷面積の季節変化を示す。1980年代、1990年代それに2000年代それぞれ平均と比較して、海氷面積が最大期となる3月においても海氷面積が最小期となる9月においても近年2010年代の海氷面積は小さい。特に最小期の9月の減少幅が大きい。またその中でも2012年9月は最小面積を示している。
(図4) 北極海氷面積季節変化(ADSより)
図5は人工衛星からみた北極海氷の広がりを示している。2012年9月16日の観測が、最も縮小していることがみられる。これは1980年代の半分程度となった。
(図5) 人工衛星からみた北極海氷の広がり(ADSより)
海面上昇の現況
図6には2004〜2010年における年間の海面上昇(全球平均)に占める各要素の割合を示す。北極域の氷河や氷床の融解による海面上昇の寄与が約1/3を占めている。この期間では年間3 mmであるが、温暖化が進むとさらに増加すると予測されている。
(図6) 年間の海面上昇(全球平均)に占める各要素の割合(2004〜2010年)(SWIPA Fact Sheet 2017より)
将来の温暖化予測
図7に全球年平均、北極年平均、北極冬の気温上昇の観測値と将来予測を示す。赤線は温室効果ガス高排出ケース、青線はその緩排出ケースである。緩排出(青線)でも北極では21世紀末、年平均で5℃程度の気温上昇が予測される。
(図7) 気温上昇の観測値と将来予測(1900~1950年基準)(SWIPA Fact Sheet 2017より)
文責:山内 恭(国立極地研究所大学特任教授)